ベンチャーの夢をみるなら早いうちに見て、失敗しておこう

 

この記事を書いた目的

冒頭いきなりだが、私はまごうことなきジョブホッパーである。大手からベンチャーまで複数の企業を渡り歩いた。

 

別に渡り歩いたことを自慢して、読者に対してマウンディングを仕掛けたいわけではない。これからベンチャーに転職したいと考える人の参考になればと思い、この記事を書いている。この記事を書いた動機は二つある。

 

 一つはベンチャーに応募してくる人を見ていて思うこと。ベンチャーに転職をしたいと応募してくる人を幾人も見ていると、ベンチャーでカルチャーギャップを感じる点をリアルに想定できていない人が多いと感じたからだ。当然、入社してもいないのだからリアルに想像できないのは当然である。情報の非対称性があり、良くも悪くも応募者と企業の間の正しいマッチングが出来ていないと感じる。

 

 二つ目の理由は、世の中の会社は基本的にいいもんじゃないということを伝えたいからだ。世の中のすべての物事はトレードオフで決まっていて、いい点もあれば悪い点もある。それは企業においても同じで、大企業のいい点・悪い点ベンチャーのいい点・悪い点は存在する。ベンチャーに転職を志向する人の中には、ベンチャーに行けば《自由》《裁量》《人間関係》《仕事の楽しさ》すべてが自分の思い通りに動かせそうと感じている人がいる。いくら楽しそうなことを標榜しているベンチャーでも看板と中身の違いは大きいのだよということを伝えたい。

 

 ここから先は、これまでの体験ベースで、どんなところに《退職の罠》があるのかを列挙したい。退職の罠というのは、要するにミッションは理解しているが具体的な業務やカルチャーがどうしても合わずに辞めたくなるポイントという意味である。超個人的な見解のため、一般法則ではない。むしろ別の観点があるとしたら私も知りたいので是非教えてほしい。

 

 ベンチャーに転職して年収がUPした!と喜ぶ人も多いが、短期で退職してしまっては結局手元で得られるのは、数か月分の給与と短期の職歴のみである。職業体験的な意味では、有益な体験ではあるもののキャリアを作るという意味では人生の時間をより楽しく自分にとってフィットすることに費やしてほしいと老婆心ながら思っている。

 

ベンチャーに転職して感じる2大ギャップ

ギャップポイントその①:ベンチャーに転職する人は本当の事業の中身をよく見たほうがいい。

 基本的にベンチャーは営業会社が多い。理由はすごく単純でキャッシュフローを改善して資本金を減らさずに事業をグロースさせるための最も強力な要素が営業だからだ。別にこれ自体は悪いことではない、むしろ商売の基本である「開発⇒製造⇒販売」という流れのサイクルタイムを早めるための重要な職務である。

 事業の中身を見たほうがいいというのは、実態は単なる営業会社(ここで言う営業会社とは自社製品・サービスを持たず仲介や人売りの会社)でありながら、対社外向けには耳障りの言いことを言う会社が多いからだ。

 私がよく出くわす文言は、「テクノロジーの力で~~を変えてく」というもの。ここで参照されているテクノロジーとしてあげられるのは、ITシステムのことがほとんどだ。よくよく聞くとITで変える部分と言っているのは、UIの部分であり、本質的にユーザーの購買体験が変わるというものではない。こういった会社では、結局のところUIの裏側で動いている業務は従来ビジネスとは何も変わらずに、ゴリゴリの営業と超属人化されたノウハウに支えられているというところが多い。

 それゆえに、《中長期的なR&Dプロジェクトをやりたい》《新規事業をリスクをとって社内で始めたい》と考えている人は、ベンチャーよりも大企業が向いていると思う。R&Dも新規事業もどちらも企画の時点でアイデアが必要とされるものである。アイデアを練るという行為は余裕のある思考が出来て初めて成立するものであり、日銭稼ぎの業務で金と時間のやり取りに消耗していては余裕は無くなる。

 

ギャップポイント②:環境要因(≃カルチャー、人)の水準は想定より高くはない

 ベンチャーの人材レベルは基本的には高くないと考えた方がいい。経験値やナレッジが組織にたまっておらず、とにかく《動く》だけの人も多いのが実態である。動くことができないやつが、どんな仕事をするんだ!というツッコミが聞こえてきそうだが、その通りだと思う。動き方にも種類があって、重要なのは《組織で動く》ということが重要である。組織で動くためには《目的》《論点》が共有され始めて具体的なアクションに移るはずである。

 大企業でも残念ながら目的・論点という言葉だけ表層的にとらえて、組織で動ける人は多くはない。いわんや(・・・反語)

 思考レベル以外にも社会人として超基本的なマナー、立ち振る舞いという点でもベンチャーの水準は総じて高くない。大企業から転職する人がまずギャップを感じるのはこのあたりだと思う。仮に入社したら「こんなことから教えないといけないのか」「社会人としてレベルが低すぎる」と率直に感じることがあるのではないかと思う。

  

ベンチャー企業の類型

ここでは、私が考えるベンチャー企業を類型的に箇条書きで書いてみたいと思う。

類型①:先生型コンサルベンチャー
  • 代表取締役の人脈と業界のポジショニングによってのみ成立している会社。

  • インカムラインは人売り、事業はPRのためのもの。

  • 自社の事業をもたないから集まる人達は個人事業主っぽい人が多い。

  • 「先生型」であることが許されているがゆえに、事業を具体的に提案・推進するという点においてお寒い議論をしがちな人も多い。

類型②:錬金術ベンチャー
  • テクノロジー会社っぽいPRをするものの中味は普通のシステム営業会社。

  • 自社ツールの開発は全く進まない。

  • 自社製品がないから結局はITのシステム構築で人売りになる。

  • トップマネジメントが興味あるのは「上場」「資金調達」のみ。

  • 大手SIer出身のおじさん、おばさんたちがレファーラル採用でたくさん入ってくる。

  • おじさん、おばさんは【大手SI】かつ【PM】みたいな仕事しかしてこなかった人が大多数なので、技術はおろかスピード感が求められるプロダクト作りにもキャッチアップできない人が多い。モノづくりを期待するクライアントからしたら悪い点だが、システム営業会社という実際の企業の立ち位置を考えれば、営業リードを取るためのきっかけとしては使える。

類型③:サークル系ベンチャー
  • ノリですべての業務を回す会社。

  • 「仕事こそが人生だ!!」と主張し、労務管理もずさんな組織となり果てる。

  • ノリしかないので、付加価値が低い仲介事業を主に展開する。

  • 客には新しい事業っぽいフレーズで売り込んでいるが、実際の売り上げは従来の企業と変わらない。いかにして自分で考えない顧客を取り込むかがビジネスのカギになる。

  • 働く人は基本的に皆、個人的な付き合いの範囲ではいい人が多い。

  • 組織の構築や業務の標準化という「組織で仕事を作っていく」という点に関しては苦手でとかく個人プレーに走って場当たり的に対処する。

 総括

 ベンチャーでも大企業でも合う・合わないは人それぞれ。ここに記載したものはベンチャーに入社した時にギャップとして感じる点をギャップっぽく書いたものである。ベンチャーに転職したい人は、面接だけでなく現場のディスカッションなどにも参加させてもらってから意思決定した方がよい。

 入社してみて違うなと思うこともあるだろう。そのためにも早いうちに、部分的にでもいいからベンチャーと関わりを持ちながら現実感をもって転職するのがよい。